海が日本の脱炭素を変える。「ブルーカーボン」が切り拓くNature-based Solutionsの新たな可能性
- 野口 英光
- 7月22日
- 読了時間: 7分

海の生態系が「気候変動対策の主役」になる時代へ
こんにちは。一般社団法人 Nature-based Solutions です。
近年、脱炭素社会の実現に向けて、森林によるCO₂吸収「グリーンカーボン」が広く知られるようになりました。一方で、今、世界中で急速に注目を集めているのが**「ブルーカーボン」**です。
ブルーカーボンとは、アマモ場や海藻藻場(コンブ・ワカメ・ホンダワラなど)をはじめとする海洋生態系が吸収・固定する炭素のことを指します。
日本は国土面積こそ世界で大きくありませんが、**世界有数の排他的経済水域(EEZ)**を有する海洋国家です。そのため、陸地だけではなく、「海」を活用した脱炭素の可能性が非常に高い国でもあります。
Nature-based Solutions(NbS)の考え方は、「自然を守ること」と「社会課題を解決すること」を両立させることです。
ブルーカーボンはまさに、その代表例と言えるでしょう。
本記事では、日本のブルーカーボンを取り巻く最新動向と、今後期待される可能性について、Nature-based Solutionsの視点から分かりやすく解説します。
ブルーカーボンとは何か?
ブルーカーボンとは、
海草(アマモ・ウミヒルモなど)
海藻(コンブ・ワカメ・ホンダワラなど)
干潟
マングローブ
などの海洋生態系によって吸収・固定される炭素を意味します。
植物は光合成によってCO₂を吸収しますが、海の植物も同様です。
さらに、海洋では一部の炭素が海底堆積物として長期間固定されるため、陸域とは異なる炭素固定の仕組みを持っています。
近年では、この吸収量を科学的に評価し、カーボンクレジットとして活用する取り組みも進んでいます。
なぜ今、ブルーカーボンが注目されるのか
日本では長年、森林吸収源によるカーボンニュートラルが期待されてきました。
しかし、
森林の高齢化
森林管理者不足
利用可能な土地の限界
などから、森林だけで2050年カーボンニュートラルを実現することは容易ではありません。
そこで期待されているのが海洋です。
海洋面積の広い日本では、藻場を保全・再生することで新たなCO₂吸収源を創出できる可能性があります。
つまり、
「森林だけではなく、海も炭素を吸収する時代」
が始まろうとしているのです。
沿岸だけではない。沖合に広がる大きな可能性
現在、国内でブルーカーボンの対象となっている多くは沿岸部です。
しかし、研究機関ではさらに広大な沖合での活用可能性が検討されています。
国土交通省の研究機関である港湾空港技術研究所では、沖合への展開が進めば、現在よりも大幅な吸収量の拡大が期待できるという試算も公表されています。
もし沖合で安定的な藻場造成や維持管理が可能になれば、日本の脱炭素政策にとって大きな転換点となるでしょう。
Nature-based Solutionsの視点でも、これは単なる環境保全ではありません。
漁業資源の回復
海洋生態系の保全
地域産業の活性化
カーボンクレジット創出
を同時に実現できる可能性があります。
これはまさにNbSが目指す「自然と経済の好循環」です。
ブルーカーボンクレジットが持つ新たな価値
近年はブルーカーボンを活用したクレジット市場も拡大しています。
従来のカーボンクレジットでは、
「本当に追加的な削減なのか」
という点が重視されます。
ブルーカーボンは、
藻場の再生活動
海草の植栽
保全活動
といった取り組みが比較的分かりやすく、企業活動との関連性も説明しやすいことから、高い付加価値を持つクレジットとして注目されています。
実際に国内では、企業がブルーカーボンクレジットを購入し、自社の環境活動や番組制作などで排出したCO₂のオフセットに活用する事例も出てきています。
これは単なる「排出量の相殺」ではなく、
企業ブランドやESG経営を支える重要な投資
として位置付けられ始めています。
技術革新がブルーカーボンを支える
ブルーカーボン普及の鍵は、
「計測」
と
「造成」
です。
広い海で海藻を育て、その吸収量を正確に測定することは簡単ではありません。
しかし、日本企業が持つ既存技術が、この課題解決に活用されています。
魚群探知機技術の応用
魚群探知機やソナー技術は、本来漁業向けに発展してきました。
現在では、これらの技術を海藻の分布や成長状況の把握に応用する研究も進められています。
広範囲を効率よく調査できるため、ブルーカーボンのMRV(測定・報告・検証)の高度化にも期待されています。
水処理技術の応用
沖合では栄養塩が不足し、海藻が育ちにくい場所があります。
そこで注目されているのが、水処理技術などで培われた栄養管理技術です。
これらを海洋環境に応用することで、海藻が成長しやすい環境づくりを目指す研究も進んでいます。
日本企業が長年培ってきた技術が、海洋分野でも活用され始めているのです。
Nature-based Solutionsが考えるブルーカーボンの価値
私たちはブルーカーボンを、
「CO₂吸収量」だけで評価すべきではない
と考えています。
藻場は、
稚魚の育成場所
生物多様性の保全
漁業資源の回復
海岸保全
水質改善
など、多くの生態系サービスを提供しています。
つまり、
ブルーカーボンは
気候変動対策
だけではなく、
ネイチャーポジティブ
の実現にも貢献する取り組みなのです。
さらに地域の漁業者や自治体、企業、研究機関が連携することで、
地域経済
観光
教育
環境保全
といった幅広い価値創出にもつながります。
今後重要になるMRVの高度化
Nature-based Solutionsの社会実装では、
MRV(Measurement・Reporting・Verification)
が不可欠です。
どれだけCO₂を吸収したのか。
そのデータが科学的に説明できなければ、クレジットとしての信頼性は高まりません。
AI、ドローン、衛星データ、水中センシングなどの技術を組み合わせることで、より精度の高いMRVの実現が期待されています。
当法人でも、森林だけでなく海洋分野を含めたNature-based Solutionsの評価手法や環境価値の可視化について、今後も最新動向を注視していきます。
ブルーカーボンは日本の新しい成長産業になれるのか
ブルーカーボンは、単なる環境保全活動ではありません。
そこには、
GX(グリーントランスフォーメーション)
カーボンクレジット
ネイチャーポジティブ
地域創生
生物多様性保全
海洋産業
ESG投資
といった多くのテーマが交差しています。
海に囲まれた日本だからこそ実現できるNature-based Solutionsとして、世界をリードできる可能性を秘めています。
そのためには、
科学的根拠に基づくMRVの確立
官民連携による藻場再生
技術開発への投資
地域との協働
環境価値を適切に評価する市場形成
が今後ますます重要になるでしょう。
まとめ
ブルーカーボンは、日本の脱炭素政策における新たな可能性として、大きな期待を集めています。
森林だけに依存するのではなく、海という豊かな自然資本を活用することで、気候変動対策と地域経済、生物多様性保全を同時に実現できる可能性があります。
Nature-based Solutionsが目指すのは、自然を守るだけではなく、自然の力を社会課題の解決につなげることです。
ブルーカーボンは、その理念を体現する代表的な取り組みと言えるでしょう。
今後も当法人では、ブルーカーボンや森林吸収源、バイオ炭、カーボンクレジット、MRVなど、Nature-based Solutionsの最新動向を分かりやすく発信し、企業・自治体・研究機関との連携を通じて持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
引用・参考資料
国土交通省
港湾空港技術研究所
環境省
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)
IPCC「2013 Supplement to the 2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories: Wetlands」
国立環境研究所
水産庁
日本経済新聞(ブルーカーボン関連記事)
用語集
ブルーカーボン
海草や海藻など海洋生態系によって吸収・固定される炭素。
グリーンカーボン
森林など陸域の植物によって吸収・固定される炭素。
Nature-based Solutions(NbS)
自然の機能を活用し、気候変動、生物多様性、防災などの社会課題を解決する考え方。
MRV
Measurement(測定)、Reporting(報告)、Verification(検証)の総称。カーボンクレジットの信頼性を支える重要な仕組み。
カーボンクレジット
温室効果ガスの削減・吸収量を認証し、取引可能な環境価値として扱う制度。
免責事項
本記事は、公開時点で入手可能な公的資料および研究機関等の情報を基に作成しています。研究開発や制度設計は継続的に見直されており、将来的に内容が変更される可能性があります。投資判断や事業判断を行う際は、必ず最新の法令・制度・公表資料をご確認ください。なお、本記事は特定の投資や事業を推奨するものではありません。



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