再エネ調達の評価軸が変わる。GHGプロトコル、SBTi、RE100の最新動向から日本企業が見直すべき4つの論点
- 英光 野口
- 4月1日
- 読了時間: 6分

企業の脱炭素経営において、再生可能エネルギーの調達はすでに「調達したかどうか」だけでは評価されにくい段階に入っています。いま問われているのは、その再エネ調達がどの市場で、どの時間帯に、どのような手段で、どれだけ実体的な電力システムの脱炭素化に結びついているかという“質”です。GHGプロトコルではスコープ2ガイダンスの改定案に関する公開コンサルテーションが2025年10月に始まり、時間整合や地域整合といった新たな論点が正式に俎上に載りました。SBTiも企業ネットゼロ基準V2の見直しを進めており、スコープ2についてはロケーション基準とマーケット基準の両方、またはゼロカーボン電力目標の扱いを再整理しています。さらにRE100でも、市場境界や発電設備の運転開始年に関する要件が強化されています。再エネ調達は、広報やCSRの文脈だけでなく、会計、調達、サプライチェーン、設備投資の横断課題になったと言えます。
1. 追加性は「推奨」から実務上の重要論点へ
まず押さえるべきは、追加性です。追加性とは、企業の調達行動が新たな再エネ電源の導入や系統の脱炭素化をどれだけ後押ししているか、という考え方です。SBTiの2025年3月公表ドラフトでは、スコープ2達成に使うゼロカーボン電力について、時間・地理の整合を求める方向が示される一方、勧告事項として「追加的な再エネ生産につながる契約手段を調達すべき」と明記されています。つまり、単に証書を買えば十分という整理ではなく、どの契約が実際の電源形成に寄与しているかが重視され始めています。
RE100でも、2024年以降の報告期間については市場境界の考え方が厳格化され、さらに日本の実務解説資料でも、RE100適合性の観点から「運転開始から15年以内」の電源に由来する再エネ価値を重視する運用が整理されています。日本では非化石証書、グリーン電力証書、J-クレジットなどをどう使うかが論点になりますが、今後は「買えたか」より「どの電源に紐づくか」が一段と重要になります。
2. 年間一致から時間一致へ。アワリーマッチングの方向性
次に大きいのが、時間単位での整合です。GHGプロトコルは2025年8月に、スコープ2改定案として「地域整合」と「時間整合」を含む見直し案を公表予定であると発表し、10月には実際に公開コンサルテーションを開始しました。公表文では、改定案に hourly matching criteria が含まれる一方、すべてのケースで厳格な時間データを要求するわけではなく、実務上の配慮措置も含まれると説明されています。
SBTiの2025年ドラフトでも、企業は可能な限り、自社の電力使用と時間・地理の両面で整合する契約手段を調達すべきだとされています。これは、昼に発電した太陽光の証書で夜間使用電力まで一律に「再エネ化した」とみなす従来の発想に修正を迫るものです。特にデータセンター、製造業、24時間稼働設備を持つ企業では、蓄電池、風力、需要制御、複数電源の組み合わせまで含めた調達戦略が必要になります。
3. VPPAは有力手段だが、「会計が完全に不要になった」わけではない
バーチャルPPA(VPPA)は、追加性を伴う新規電源への関与や、中長期での再エネ価値確保の手段として存在感を増しています。たとえば村田製作所とコスモエコパワーは2026年1月、風力由来の環境価値を対象とするVPPAを公表しました。村田製作所はこの契約により、大分風力発電所と中紀ウィンドファーム由来の非化石証書を受け取り、年間約1万3700トンのCO2排出削減効果を見込むとしています。村田にとって風力由来の環境価値を調達する初のVPPAであり、日本でも太陽光偏重から一歩進んだ事例として注目できます。
一方で、会計論点は「完全解消」とまでは言えません。IFRS財務諸表を採用する企業向けには、IASBが2024年12月に nature-dependent electricity contracts に関するIFRS 9・IFRS 7の改正を公表し、own-use 要件の適用明確化、ヘッジ会計の適用容認、追加開示を定めました。適用開始は2026年1月1日以後の事業年度です。つまり、VPPAや再エネ電力契約をめぐる会計処理は前進したものの、「一律にデリバティブ会計が不要になった」とまでは言えず、契約条件と適用基準に応じた判断が引き続き必要です。
4. 土地改変リスクも無視できない時代へ
再エネであれば無条件に高評価、という見方も見直しが進んでいます。GHGプロトコルは2026年1月に Land Sector and Removals Standard を公表し、2027年1月1日から適用するとしています。この基準は農業・土地利用・CO2除去の会計を扱う初の正式基準で、土地利用変化による排出を企業インベントリに取り込む枠組みを整備しました。土地利用変化排出については、年次報告に対して20年を基本とする評価期間を用い、線形ディスカウントで各年に配分する考え方が明記されています。
この論点は、森林伐採や土地転換を伴う電源開発、あるいはバイオマスや農業由来サプライチェーンの評価に直結します。日本企業にとっては、単に再エネ比率を高めるだけでなく、どの立地で、どの開発履歴を持つ電源なのかまで確認する必要性が高まる可能性があります。再エネ調達戦略は、今後ますます土地・自然資本・サプライチェーン管理と一体で考えるべきテーマになります。
まとめ
日本企業が今やるべきことは明確です。第一に、証書購入中心の調達をそのまま延長するのではなく、追加性、時間整合、地域整合を踏まえてポートフォリオを再設計すること。第二に、VPPA、フィジカルPPA、オンサイト、自家消費、証書の役割を分けて整理すること。第三に、再エネを「量」だけでなく、電源の新しさ、市場境界、土地改変の有無まで含めて評価することです。GHGプロトコル、SBTi、RE100はいずれもまだ一部が改定途上ですが、方向性は共通しています。これからの再エネ調達は、名目上の再エネ化から、実体的な脱炭素貢献へと軸足が移っています。いまのうちに調達ルールと社内説明ロジックを更新しておくことが、2026年以降の開示・評価対応の差になります。
参考・引用
・日本経済新聞 GX「再エネ調達のルール見直し」に関する記事(ご指定URL)
・GHG Protocol, “Scope 2 Standard Advances: ISB Approves Consultation on Market- and Location-Based Revisions”
・GHG Protocol, “RELEASE: GHG Protocol Opens Public Consultations on Scope 2 and Electricity Sector Consequential Accounting”
・GHG Protocol, “Land Sector and Removals Standard” および同標準本文
・SBTi, “Draft Corporate Net-Zero Standard V2 Explained: Scopes 1, 2 and 3”
・SBTi, “Draft Corporate Net-Zero Standard V2 Explained: Environmental Attribute Certificates” および Consultation Draft
・IFRS Foundation, “IASB updates IFRS Accounting Standards for nature-dependent electricity contracts”
・Renewable Energy Institute, Renewable Electricity Procurement Guidebook 2026
・CDP / RE100 Reporting Guidance 2023、Accounting of Scope 2 emissions 2024
・環境省「RE100について」2025年版資料
・村田製作所、コスモエネルギーグループのVPPA公表資料
免責事項
本記事は、2026年4月1日時点で公表されている公開資料に基づいて作成しています。GHGプロトコル、SBTi、RE100はいずれも改定・運用見直しが継続している領域であり、今後のコンサルテーション結果や正式版公表により要件が変更される可能性があります。個別企業の会計処理、開示対応、調達手法の適法性・適合性については、最新の原文資料、監査法人、会計士、弁護士、制度運営機関等への確認を前提にご判断ください。



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